介護・IT業界情報

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医療・介護提供体制の現状と将来

 連携ができていない理由の根本には、意識そのものが希薄ということがある。これに関連して、ある論文では次のように指摘している。

 ――自治体病院ひとつ取っても文部科学省、厚生労働省、総務省の管轄があり、成り立ちが違うので難しい。また自治体病院は隣の町同士で境界があるため同じような病院があり、両方で医師が不足している。一つにすればそうした課題は解決できるのに、自治体同士で喧嘩をしてやらない。市民にも病院をなくしては困るというエゴがある。従って連携を阻む壁が高い。病院の事務長のアンケートでも、自分の病院で誇れるものとして「連携」を挙げているのは1%以下か1%台だ。

 連携しなくともやっていけるということもある。つまり、入院させて報酬の高い診療だけをやっていれば経営は成り立つというわけだ。

 だがそれはままならなくなってきた。なぜなら75歳以上が入院するケースが一番多く、治療後も行く場所がないとずっと入院している。そうなると新たに入院できなくなる。空きベッドがないから救急車はたらい回しになる。それで急性期の病院は困った。受けてくれるようにするには連携が必要で、そのための予算取りであり、地域医療再生計画であるということだ。

 連携を加速させるため、国は川上の急性期の病院は2週間で退院させないと診療報酬が激減するという状況をつくった。2009年11月以降、DPC(注)の評価係数が見直しになり、急性期医療や地域医療に貢献している病院でないと評価は引き下げられることになった。

 大型病院は、国のこの政策に沿っている。でないと患者を入れても早く出せない。それにはリハビリだったらここ、長期療養だったら療養所、それほどでもなければ老健や高齢者住宅といったような連携が重要になってくる。

(注)DPC=Diagnosis Procedure Combination。従来の診療行為ごとの出来高払い方式と異なり、手術など診療行為の有無に応じて定められた1日当たりの診断群分類点数を基に医療費を算出する定額払い会計方式。平成15年から試行、16年以降拡大。

 これは日本だけの特殊事情ではない。どこの国でも入院期間を短くするための受け皿がないことから「連携」というテーマが出てきている。逆説的にいえば連携が進まない理由もそこにある。つまり、連携しようという理想からスタートしていないのだ。

 連携が突出して進んでいる国はない。多いのはナーシングホームという形。ナースがいて、個々についている主治医が外から来て診る。緊急時にはナースが主治医の指示を仰いで処置を行なう。ナーシングホームは日本で言えば特養のようなもの。ただ特養と違って金額が数百万円と高い。そういう点では日本は恵まれている。だから厚生労働省は負担率は低いのでもう少し増やしてといっている。いずれにしろ増やさないと無理であり、消費税を増やしていく布石は厚生労働省が担っている。

 医療−介護連携に関する提供体制の現状と将来についてみると、現状は一般病床と療養病床、老健、特養、居住系施設、在宅といった病床機能が未分化し、ニーズに応じた供給が不足している。これを将来は急性期、亜急性期・回復期等、長期療養(医療療養)、特養・老健、居住系施設、在宅といったように選択と集中、機能分化・ネットワーク、居住系施設・在宅の一層の充実を図ることになる。

 将来の医療・介護提供に向けた動き方としては、医療の必要度の高い急性期に関しては特定機能病院、高度急性期病院、急性期病院が担う。慢性期に関しては回復期・亜急性期病床、医療療養病床、介護療養型医療施設。介護期は介護療養型老健、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、シニアリビングそして在宅となる。この中に入った人は診療報酬を上げるが入ってない人は下げる方針。今後、診療報酬をいかに増やしてもドクターにお金はいかない。だから診療報酬では上げられないが、補正で対応するという政策だ。

連携にはネットワークによる情報共有が不可欠

 連携をより有効なものにするためには、IT(情報技術)を活用したネットワークによる情報共有をする必要がある。医療分野におけるIT活用連携で代表的なのは国立病院機構長崎医療センターだ。

 同センターは2004年10月から、地域の医師会(長崎県大村市医師会、諫早医師会)や病院(市立大村市民病院)と連携した診療情報共有ネットワーク(あじさいネット)をスタートさせている。当初は病院患者情報をかかりつけ医が閲覧する照会型だったが、最近では病院への患者紹介や高額な医療機器の共同利用などまで拡大、情報提供病院も長崎大学病院や長崎市医師会などに広がっている。

 医療と介護の連携でも、長崎医療センターのケースが示すように、クリティカルパスも含めてITネットワークを使い、情報共有をする必要がある。クリティカルパスを繋げていけば、医療と介護の双方に報酬が入る。そこまで行くと思う。

 またITスキルは、先に紹介した介護職員のキャリアアップやキャリアパスの大きな要素にもなる。2012年度の同時改定に向けて、介護職員のITスキルの向上に取り組むことをお勧めする。