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都市大・生体医工学科の新棟がオープン(2)

医学と工学の融合。実験実習、現場主義に徹した教育研究

 都市大のように、工学系の中に医学系の学修内容を盛り込んだ学科を設けるケースは最近増えつつある。生命工学、生命科学といった名前が一般的で、食品栄養関係や薬品関係の技術者を育てるのを主たる目的にしている。臨床工学科、医療工学科といった学科もある。これは病院での資格を得るための受験をするための勉強をするのが主眼だ。

そうした中で都市大の生体医工学科は「機器、機械の設計、製造、開発などの技術者を育てる学科と位置付けている」(生体医工学科主任教授の石島正之氏)という。(写真A)

A都市大生体医工学科主任教授の石島正之氏
A都市大生体医工学科主任教授の石島正之氏

  具体的には、生体医工学科は機械工学、電子工学、医学の3つの分野で構成する。このうち機械工学は設計・製図などの機械工学の基礎や制御工学、材料工学などを学ぶ。電子工学は、電子回路や電気信号、デジタル回路などを学修する。医学では解剖学、外科学、生理学、内科学など。生理学は医学の中の工学といわれるほど工学に近い。

 都市大の一番の特徴は、低学年では電子工学、機械工学、医学の基礎を学び、高学年では電子工学と医学または機械工学と医学のいずれかに分かれて専門的に学ぶ。高学年は3年の後半から研究室に入るが、例えば機械工学系では治療機器やメカトロニクスを中心とする臨床器械工学研究室、知覚システム工学研究室に入る。

 電子工学系では生体計測工学研究室または生体認知工学研究室を選ぶ。都市大の学生は「大変勉強熱心な学生が多く、高学年では専門分野が分かれることが決まっているのに、電子工学と機械工学の両方を学ぶ学生が多い」(石島教授)という。

 第二の特徴は自ら手を動かして学ぶことで、いわゆる実験・実習に力を入れている点だ。例えば自動車を作る、橋をかける、ビルを建てるといった技術を学ぶ場合、学生は小さいときからそれがどういうものか概念を知り経験しているが、医療器械を作って人を助けると言われても、概念すら分からない。

 そこで例えば臨床実習室では、臨床で使用するME機器(医療機器)を導入し、将来、設計するであろうME機器をシミュレートし、学修する。学生実験室では電気、電子、工学、医学をバラバラに学ぶのではなく、有機的な学修が出来るようになっている。

 その一例がカエルの実験。このときの基礎になるのは電気回路で、増幅器を作る。カエルから取り出した神経、心臓から電気を取り出すが、うまく電気が取れなければ、回路に戻って設計し直すといったように、明確な目的を持った上で、工学と医学の基礎的な実習を行なう(写真B)。クリーンルームや病院と同じ設計設備の手術室も完備し、手術台が2セットある。こうした設備で、通常ではあまり体験できない現場を体験し、学び取り、新しい発想に繋げてもらうのが狙いだ。

Bカエルの神経や心臓から小型回路の開発へ
Bカエルの神経や心臓から小型回路の開発へ

 第三の特徴は病人に向けた医療機器の研究のみならず、健康な人たちに向けた機器の開発も目指している点である。

 例えば医療ロボットなどは病人に向けたものだが、健康な人たちが家庭で診断し、万一具合が悪いところがあれば病院等で精密検査をする。また、自宅の仮想現実空間づくりにも取り組む。これは映像だけでなく、匂い、肌に触れる風、遠くでさえずる鳥の声など全てを再現することで、あたかもその現場にいる環境に入ることが出来る。

 「そうした仮想現実空間をつくることも生体医工学科の使命と考えている。それによって精神が救われるというのは医療に関連した技術。あるいは居眠り運転に関連して、居眠りをする前の体の状況を見て、居眠りを始める前にブレーキをかけて、自動コントロールで車を路肩に停めるといった技術の開発。これも医学、工学の両方を弁えることによって、健常者にも幸せをもたらす技術を開発できる能力を身につける、発想をもてる教育をしていきたい」(同)